『社会的ひきこもり 終わらない思春期』斎藤環|本の紹介

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はじめに

『社会的ひきこもり 終わらない思春期』の著者の斎藤環さんは精神科医で、現在は「つくばダイアローグハウス」という診療所の院長を務めてらっしゃいます。本書は斎藤さんの代表作で1998年に出版されています。20年以上も前の本ですが、内容は全く古さを感じません。私は不登校支援の仕事を始める前に初めて本書を読み、今でも時折手に取って読み直すことがありますが、その度に気づきを与えてくれる素晴らしい本です。不登校が直接のテーマというわけではありませんが、ぜひ紹介させてください。

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内容ざっくりまとめ

本書は理論編と実践編に分かれています。
理論編では、「社会的ひきこもり」=「家族以外のあらゆる対人関係を避け、そこから撤退してしまうこと」と定義し、対人関係を避けることでよりひきこもり状態を長引かせてしまうという悪循環を説明しています。対人恐怖や不眠、家庭内暴力といった問題に個別に対処するのではなく、その根源となっているひきこもり状態を治療する必要性を説いています。

*「治療」という言葉はいかにも病気扱いしているような印象ですが、精神科医療の世界でもひきこもりを重大な問題として考えていきましょうという当時の著者の想いから、ここではあえて強い言葉が使われていると推測されます。

また、不登校とひきこもりの関連についても言及されています。研究データによると、不登校が長期化してひきこもり状態に至るケースは多くないものの、ひきこもりになるきっかけとしては不登校が圧倒的にトップになっています。

実践編では、お子さんとのコミュニケーションの取り方や保護者がとるべき心構え、家庭内暴力への対処法など、引きこもり状態における実践的なテクニックが紹介されます。実際にひきこもり状態の子どもを持つ保護者さんに向けて、あたたかくも冷静に背中を押してくれる内容になっています。

感想

斎藤さんは、ひきこもりの治療において重要なのは他者による介入をいかに有効に行うかであると述べており、私はこの考え方に特に共感しました。
治療における他者との関わりについて、斎藤さんが言及している箇所を以下に引用します。

“私なりの「成熟のイメージ」は、次のようなものになります。「社会的な存在としての自分の位置づけについての安定したイメージを獲得し、他者との出会いによって過度に傷つけられない人」。もちろんこれは暫定的なものですが、おおむね私は、患者さんが最終的にこうあってほしいという理想像を持ちつつ治療に当たっています。それでは「成熟」は、いかにして可能になるか。私はそれが「外傷への免疫の獲得」という過程ではないかと考えています。「心が傷つき、そこから回復する」ことは、「感染症にかかり、回復する」ことと似ています。”
“人は「成熟」に際して、いやおうなしに外傷を体験します。ただし、それだけでは足りません。もう一つの重要なことは、外傷を体験した人は、外傷から回復する機会を十分に与えられる権利があるということです。「成熟」の過程で欠かせないのは、この「外傷の体験と回復」というセットなのです。そしてこのセットを可能にするのが、まさに「他者との出会い」にほかなりません。”
(斎藤環「社会的ひきこもり 終わらない思春期」, PHP研究所, 1998, 第2部-1「外傷の体験と回復」より)

不登校のお子さんを訪問支援するにあたり、私はそれぞれの生徒さんたちに短期的な目標を持って活動しています。再登校を目指すこと、学校以外の居場所を作ること、打ち込めるモノを見つけることなど、短期的な目標は生徒さんごとに異なります。一方で、皆さんに対する共通の長期的な目標として「いつか自立した人間として、生徒さん自身が決めた幸せな人生を送ってもらうこと」を掲げています。これは斎藤さんが言う「成熟すること」に言い換えられると思います。

不登校になったお子さんたちは、容姿をからかわれたり、相対的な能力の低さに落ち込んだりなど、他者によって傷つけられた経験を持っていることが多いと思います。こうした経験を持つお子さんは、保護者の愛情をもってゆっくりと癒やされるべきです。しかしさらに傷つくことを恐れるあまり、不登校が長引いてひきこもりのような状態になってしまうと、その傷を本当の意味で回復してくれるはずの他者との出会いを失いかねません。再登校する、もしくは学校以外のコミュニティや支援者と関わることで、保護者以外の他者と出会い、成熟する機会を得られるようサポートすることが大切だと感じました。

さいごに

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。本書は、ひきこもりや不登校の子どもの保護者さんはもちろん、支援者さんにも幅広くおすすめできます。ここでは紹介しきれませんでしたが、特に実践編は大変有用です。「会話をどう続けるか」「長期戦をやり遂げるために」「治療における『愛』の難しさ」など、目次を見ただけでも自分事のように感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。少しでも気になった方は、ぜひ手に取ってみることをおすすめします。

参考文献:斎藤環「社会的ひきこもり 終わらない思春期」, PHP研究所, 1998

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