『子どもが本当に思っていること』精神科医さわ|本の紹介

はじめに

著者のさわ先生は、児童精神科・心療内科クリニックの院長であり、発達障害や不登校のお子さんを育てる母親でもあります。子どもに向き合う当事者として二つの異なる視点を持つさわ先生が、どのような言葉で子育てを語るのかがとても気になり、本書を手に取りました。

さわ先生は自身のYouTubeチャンネルもお持ちで、動画での発信も積極的に行っています。本書を紹介する動画では、「子育てにおいて一番大切なことは、子どもを伸ばそうとするのではなく、ありのままの子どもを受け入れて存在を肯定すること」「具体的な声かけなどの子育てのやり方ではなく、親としての在り方を書いた本」とおっしゃっていました。

子どもの心の声を知ることで、安心して子育てができるようになる一冊です。ぜひ紹介したいと思います。

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内容ざっくりまとめ

本書はこのような章立てになっています。
第1章 子どもは安心したい
第2章 子どもは怒らないでほしい
第3章 子どもは自立したい
第4章 子どもは信じてほしい
第5章 子どもは見守っていてほしい
第6章 子どもは受け入れてほしい

それぞれの章では、具体的な「子どもの心の声」がいくつか紹介されます。「子どもの心の声」は全部で50個あり、さわ先生が児童精神科医として、そして母親としての視点から解説しています。

例えば「第2章 子どもは怒らないでほしい」では、「私の気持ちも考えず無理やりさせないで」という心の声が紹介され、子どもも親もお互いに楽になる考え方が示されています。

“私にも、無意識のうちに子どもたちを自分の思いどおりにしようとしていた時期がありました。(…)が、あるとき、長女はせき払いのようなチックをしはじめたことに気づきました。(…)そして、子どもがそもそも自分の思いどおりになると思うこと自体がまちがいだと気づいたら、子育てがずいぶんと楽になりました。ですから、子どもが思うように動いてくれなくて苦しんでいる親御さんの話をうかがうたびに、相手が子どもであってもコントロールしないほうが、お互いに楽になることをお伝えしています。”

そもそも、人間関係というのは、自分の思いどおりにコントロールしようとすればするほどうまくいかなくなります。私も、診察室で患者さんの話を聞きながら「こうすればいいのに」と思ったとしても、それを相手に押しつけることはありません。どこがつらいのか、なにが不安なのかをじっくり聞いたうえで、「たとえば、こうやって考えてみることもできるかもしれませんね。どう思いますか?」「それをしてみたら、どんな不安が出てきそうですか?」などと、少しずつ、少しずつ歩み寄っていくイメージで対話を重ねていきます。”

(精神科医さわ「子どもが本当に思っていること」, 日本実業出版社, 2024, 「第2章 子どもの心の声11 私の気持ちも考えず無理やりさせないで」より)

このように、児童精神科医として、そして母親としてのエピソードを交えながら、さまざまな「子どもの心の声」に寄り添うことで親自身も楽になれる方法が紹介されています。

感想

さわ先生自身は本書について「具体的な声かけなどの子育てのやり方ではなく、親としての在り方を書いた本」と紹介されていますが、実際には具体的な行動の改善案が満載で、いい意味で裏切られました。

“私たちは目の前の相手を励まそうとして「大丈夫」という言葉を使うことがあります。精神科医の立場から言わせていただくと、この「大丈夫」には少し注意が必要です。とくに不安の強い子どもには、根拠や確証もなく、安易に「大丈夫」と言わないほうがいい場合もあります。(…)子どもは「絶対に大丈夫って言えないのに、お母さんはなんで大丈夫なんて言うんだろう?」と、親の言っていることに矛盾を感じてしまいます。”

“子どもが不安を感じていたら、とりあえず「大丈夫!」と言わず、まずはその不安な気持ちに「不安なんだね」と寄り添ってあげてください。もちろん、人それぞれ感じ方が違うので、たとえお母さんであっても、不安の強い子の気持ちを完全に理解することはできないかもしれません。それでも、相手の不安を理解しようとする姿勢が大事なのです。

(「第1章 子どもの心の声3 とりあえず『大丈夫』って言わないで」より)

“子どもは親の思ったとおりに育つわけではないし、この先どうなるかという予測もできません。不安だからこそ、親は子どもをついコントロールしたくなってしまうのでしょう。不安ゆえに、自分と同じようなレールに乗せようとする親もいます。そんなふうに親が子どもの人生をコントロールしてはいけない、と言いつつも、かつては私もその1人でした。”


“子どもから「アーティストになりたい」「ユーチューバーになりたい」などと言われても、多くの人はその先が予想できないために、なかなか肯定できないのです。(…)そんなとき、少なくても自分が安心するために子どもをコントロールしたくなるのだということに気がついていれば、思いどおりにしようとすることにブレーキがかかりやすくなります。自分が不安だから子どもに勉強させようとしていると自覚できている人と、自分の不安をまったく自覚できないまま勉強をさせている人とでは、子どもへの圧の強さがちがってきます。子どものほうも、「あなたのためなんだから」と言われながらどんどんプレッシャーが強くなっていったら、苦しくてたまらなくなってしまいますよね。”

(「第3章 子どもの心の声19 お母さん、そんなに私のことが心配?」より)

“成績がよければほめられ、悪ければ怒られるということが続くと、他人の評価や価値観に振り回されやすくなり、ありのままの自分を肯定できなくなります。なにかあるたびに、「やっぱり自分はダメなんだ」と自信がグラついてしまうのです。まだ社会にも出ていない子どもが「自分には価値がないのではないか」と悩んでいたら、さまざまな挑戦や失敗から学んで成長していくことはできません。”

“やはり、子どもには「なにかができないからと言って、価値がないということはない」と伝えてあげてほしいと思っています。(…)やはり、大事なのは、子どもの存在そのものを認めることです。この子はなにかができるから価値がある、がんばれるから価値がある、いつもいい子だから価値があるということではなく、そこにいてくれるだけで価値があると認めてほしいのです。

(「第6章 子どもの心の声42 なにもできない自分には、生きる価値なんて…」より)

「こうした行動を取ると子どもはこのように感じるため、こう改善してみましょう」と、NGを示すだけでなく改善案まで提示してくれる点がよかったです。それらの改善案は、児童精神科医としての押しつけがましいものではなく、一人の母親として読者の気持ちに優しく寄り添う内容なので、安心して読むことができました。

さらに、児童精神科医としてのアカデミックで難しい話が控えめである点も、この本にとってよい方向に作用していると感じました。「親はこうしてしまいがちです。それはとてもよく分かります。でもこうすると子どもはこう感じてしまうので、言い方を変えてみましょう」というシンプルな文章が続くため、自分の状況に置き換えながら落ち着いて読み進めることができます。派手ではありませんが、読みやすさへの工夫が感じられました。

本書では読者としてお母さんを想定していることが明言されていますが、子育てに関わる方であればどなたでも参考になる内容だと感じました。不登校のお子さんの家庭教師として活動している私にとっても、「なるほど」と思わされる箇所が数多くあり、とても勉強になりました。子どもの気持ちへの理解の上に成り立つ一つひとつの具体的な行動の積み重ねが、親としての在り方につながるのだと感じました。

一人の母親として子育てに向き合い、子どもを思うあまり本人の気持ちがおざなりになりそうな場面で、児童精神科医としての客観的な視点から自分を見つめ直す。そうした誠実な格闘を数多く経て、この本を書き上げられたのだろうと感じ、さわ先生への尊敬の念を抱きました。

さいごに

いい意味で派手さがなく、読者の気持ちに寄り添いながら安心して読める本です。子どもへの理解を深めるだけでなく、具体的な行動にもつなげることができ、結果として保護者の心の負担も軽くしてくれる一冊だと感じました。私自身も具体的な声かけが大変参考になりました。もしよろしければ、皆さんもぜひ手に取ってみてください。

参考文献:精神科医さわ「子どもが本当に思っていること」, 日本実業出版社, 2024